※この記事は、九月九日発行の「慈眼寺寺報 第十一回」を加筆したものです。
平成二十九年度の秋のお彼岸が、つい先日終わりました。
前回ご紹介した彼岸花は、残念ながらほぼ全て枯れてしまいました…。
しかし、ご墓参の際にお供えされた多くのお花が、彼岸花の代わりに墓地を彩っています。
色とりどりの花束の中には、やや地味な緑色の葉の束が混じっています。
これはお線香とともにお寺で販売している、「樒」(シキミ/シキビ)という木の葉です。
時期によっては小さな白い花を咲かせていますが、基本的には開花していない状態で販売しております。
シキミは決して見栄えのきれいな植物とはいえないのに、なぜお寺で仏花として販売され、神聖な墓地へのお供えに用いられるのか…?
そのように疑問に思われている方も、多いのではないでしょうか。
シキミがお供えに用いられる「神聖なもの」となった理由は、性質と形という二点にあります。
まず、シキミの葉と実には強い毒性 ※ があることが、はるか昔から知られていました。
そのため、神聖な墓地が動物に荒らされてしまうのを防ぐ、いわば「魔除け」の役割を果たしていました。
寺院で植樹されることも多く、慈眼寺の墓地の中でも、大昔に植樹されたらしき数本のシキミの木が葉を茂らせています。
(毒性があるために魔除けとされていた・・・という点では、彼岸花と似た効用を持っているといえます。
詳しくは、こちらの記事をご覧ください。)
また、仏教において「清らかさ」を象徴する花・蓮華の花弁に似た形の葉をしていることで、シキミは「聖なる植物」として扱われるようになりました。
われわれ真言宗の僧侶が仏さまを拝む際・儀式の際にも、シキミは頻繁に用いられます。
器にシキミの葉を折って盛りつけ、仏様にお供えをする…という習わしがあるためです。
さらに、樹皮と葉を乾燥させて粉末にすることでお線香の材料にもなるため、シキミはさまざまな点で仏教に欠かせない植物といえるでしょう。
現代のようにお花屋さんが多くなく、色花が簡単に手に入らなかった昔は、
一年中葉を茂らせるシキミが墓前のお供えとして用いられることが一般的だったそうです。
今日、シキミが色花とともにお供えされているのは、その伝統が残っているからだといえるかもしれません。
さて、シキミとよく似た植物に「榊」(サカキ)があります。
サカキの葉はシキミに比べ、比較的整った付き方をしているのが特徴です。
サカキは「木へん」に「神」という漢字が示す通り、神棚にお供えされ、神社においては神事に用いられる植物です。
昔はシキミも神事で用いられていた為か、両者はよく混同されることがあります。ですがこちらは、全く別種の植物です。
※食べると有害ですが、触れる程度では害はありません。お供えの際はご安心ください。
※シキミの写真素材はこちらから、サカキの写真素材はこちらからお借り致しました。
参考文献
『真言宗法具図説』平成二十六年 ノンブル社
『豊山教学大会紀要』第43号より 田中文雄師「〈樒〉研究序説」